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『 奥多摩で出会った不思議な光景 』
ひとりでぶらっと山歩きがしたくなり、さわやかな秋晴れの空の下、奥多摩にある川乗山に出かけました。古里(こり)の集落を抜け杉木立の登山道に入ると、ほどなく上の方からチェーンソーの音がひとつ響いてきました。そういえば、東京都では花粉症対策のため花粉の多い杉を伐採するというニュースがあったと思い出し、どうせならこの機会にその土地本来の植生の森に戻していけばいいのにな、などと思いながら、てくてくと山道を登っていきました。私がたどった赤杭(あかぐな)尾根という稜線上のコースはところどころ捲き道を通ります。時には急傾斜で崩落した跡もあり、こんなところで森の管理作業をするなんて過酷だなあと思わずにはいられませんでした。

紅葉を楽しみながら3時間ほどで1367mの川乗山の頂に到着。雪化粧した富士山を遠望しつつ一休みし、下山は本仁田山経由のコースをとることにしました。
下り始めてまもなく、こまかなアップダウンを繰り返す「ノコギリ尾根」と呼ばれる場所にさしかかりました。このあたりは、南に向かって延びる稜線の東側が桧の植林、西側は広葉樹の森になっています。図らずも、ここで桧の枝打ちをしている一団と出会いました。目算で10数mの樹高に成長している桧の7〜8mほどのところに目をやると、摩訶不思議、枝も何もないはずの幹回りにらくらくと人が立ちあがっているではありませんか!あたかも電柱の上の作業員が横木に足を掛けているかのような足元の確かさに、幻の杭でも打たれているのかと、一瞬目を疑いました。恥ずかしながら、枝のない樹上での作業の際には、ハーネスのようなものを使って腰で体重を確保し、足は幹を股で挟むようにしてバランスを保ちつつ体を支えるのだと、このときまで思っていたのです。
まるでイリュージョンのような光景に唖然としながら、目をこらしてみると、左右の足それぞれがアブミのようなものを踏んでいます。それが一足ごと自在に動き、自動的に幹に引っかかる輪っかのようなものの先につけられていました。だから、自然な動きで枝のない幹にも登っていけるし、かつ、しっかりと足を踏ん張って作業できる仕組みになっているようです。うーん、すごい道具だなあ。感心しきりで、しばらくぽかんと見上げ続けてしまいました。
この班は全部で6人でしたが、枝を落とすのに若手は小型のチェーンソーを、ベテラン風な人は鉈を使っていました。鉈の形は私がふだん里山の作業で使っているものとは一風異なり、刃がカーブしています。ベテランさんでも、太い枝だと一本落とすのに10回ほど鉈を振るっていました。これまた大変な作業だなあと思いましたが、人目につかない山奥でそうやって黙々と作業している姿は、なんだかとてもかっこよかったです。
声をかけていろいろお話を伺いたい誘惑にかられましたが、作業中だし、私も日が暮れる前に下山したかったので今回は控えました。ですが、こういった日々の地道な作業で健全な人工林と日本の林業を守っているみなさんを取材し、生の声を聞く機会をぜひもちたいという思いが、なおさら強まってきました。今回出会った方々が「緑の研修生」かどうかはわかりませんが、とにかく思いがけない場面に遭遇したお陰で、研修生をはじめ林業に携わる方々の活動を少し身近に感じることができたように思います。と同時に、作業の様子を垣間見ながら、ガイダンスのトークショーなどで聞いた、夏の暑い盛りの作業のハードさや、やり遂げたときの達成感、作業の合間の風の爽やかさといった声を思い返し、みなさんの仕事ぶりに思いを馳せました。今日も全国各地で作業しているみなさん、安全管理にはくれぐれも気を付けて、がんばってくださいね!
葛城奈海さんのホームページ http://www.katsuragi-nami.com
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