『 雪の宮崎で 』

 前回に引き続き、「緑の研修生レポート」「葛城奈海の林業体験」撮影舞台裏の様子をお伝えします。今回は、大分ロケから一週間後の宮崎ロケでのこと。到着したその日、撮影の最中に雨が雪になり、一夜明けると市街地までも銀世界へと変貌していました。この日、宮崎は実に60年ぶりという「大雪」に見舞われたのです。海をバックに、フェニックスなど南国の木々が雪を被っている姿は、まるで合成写真でも見ているかのようでした。地元の子どもたちは大喜びでしたが、撮影現場に向かう車が上り坂の途中で立ち往生するという一幕もありました。

さて、宮崎では、匠から枝打ちを教わりました。「枝打ち」と聞いて私がイメージしていたのは、以前のコラムでも紹介した奥多摩の川乗山で偶然見かけた光景です。つまり、直径は少なくとも30cm程度に成長した木の、少なくとも人の身長よりはずっと高いところまで上って枝を落とすのだろうと勝手に想像していました。なので、直径僅か10cmほどの若いヒノキが整然と並ぶ山で車を降り、「ここが現場です」と聞かされたときには耳を疑い、「こんな細い木じゃ、私の体重を支え切れない〜!」と、まず心配になりました。

 が、それは、杞憂でした。足の着く場所で手ほどきを受けた後、縦の軸が1本しかない専用の梯子に登り、匠の言葉に従って片足を幹に捲きつけました。すると、驚くほどの安定感があり、身を委ねるに足る強度があるとすぐに確信できたのです。一方、肝心の枝打ちでは鎌の扱いにてこずりましたが、こうした作業についてはRINGYOU.NET「緑の研修生」ネットワークの中にある「森林実務 葛城奈海の林業体験」に譲ることにして、ここでは匠の河内さんについて書きたいと思います。

 

 その手入れの行き届いた美しい山は、河内さんご本人の山でした。荒廃してしまった棚田に植林したとのことで、言われてみると、今でも傾斜が緩急を繰り返しているところにその名残が伺えます。意外だったのは、足元。すっきり整った地上部とは対照的に、その根元の土がぼこぼこなのです。一体どうしたんでしょう。


 「シシです」
と、河内さん。なんと、猪が好物の山芋を狙って、あちこち掘り返した跡だというのです。さらに驚いたことには、「今朝、刺して、さばいてきた」と、袖口に残る小さな血痕を見せてくださるではありませんか!いやはや、お見それしました。よくよくお話を伺うと、このあたりでは檻の中に餌をしかけた罠で猪を獲るのだそうです。興味深いことに、その餌として、米ぬかに塩を混ぜたものを使うのだとか。野生動物が岩塩を舐めに集まってくる映像は見たことがありますが、罠の餌としてまで効果的だとは意外でした。

  当初、シャイで優しいお顔のイメージと、シシを「刺して、さばく」ワイルドな姿が私の中で合致せず少々戸惑ったのですが、ふと見ると、グローブのように分厚く逞しい手をしていらっしゃいます。何千何万本という木を慈しみ育ててきた手は、同時に、山の神からの贈り物を受け取ってきた厳かな手でもありました。

 

 

葛城奈海さんのホームページ  http://www.katsuragi-nami.com