『 植え付けた苗が育つ頃……  』

  2月下旬、17年度最後の「緑の研修生ニュース」取材のため、三重に向かいました。
やってきたのは、「松阪牛」で有名な松阪市。ふだんはあまり肉に興味のない私なのですが、地元で食べた松阪牛の焼き肉は、ほっぺたが落ちそうなほどのおいしさでした。しっかり栄養補給して臨んだ「林業体験」の5回目は、「植え付け」に挑戦しました。今回ご指導して下さった匠は、この道半世紀以上という大ベテランの松阪飯南森林組合、下村好生さん。
  下村さんが軽トラックの荷台に積んできた杉の苗は、根まで入れても高さがせいぜい40センチほどでしょうか。まさに「幼児」という雰囲気で、とてもかわいらしかったです。下村さんによると、こうした苗の種は、樹齢100~200年の古木からとるそうですが、ただの古木ではダメで、まっすぐに育ち、材として高く売れるもの、つまり優秀なDNAを持ったエリートの種子のみが選ばれるのだとか。これを畑で育てますが、小さなうちは病虫害に冒されやすいので、年に2回消毒をするそうです。苗によって葉っぱが緑だったり茶色だったりするのは、日当たりの影響だとのこと。この愛らしい2年目の苗を手に、植え付け現場に向かいました。

 車を降り、舗装された林道を5分ほど登ると柵にネットが2重にかけられた現場入口にたどり着きました。これはシカなどの動物除けのネットなのですが、ゴルフ場のネットのようにぴしっとしておらず、外側に向かって裾をだらりと垂らして張られています。見た目には美しくないのですが、これにはわけがありました。
 というのも、ぴしっと張ったネットは動物たちにとっては格好の「足場」になるため、これを利用して柵を乗り越えてしまうんだそうです。一方、だらりとしたネットには足をとられ、自由を奪われてしまうのだとか。なるほど。まさに、人と動物の「知恵比べ」なんですね。


 さて、いよいよ「植え付け」です。既に地ごしらえは済んでいる斜面に、トグワと呼ばれる鍬を使って穴を掘ります。1haあたり約4000本を植えるそうですが、間隔にすると1.5mほど。上下とは位置が互い違いになるようにずらして植えていきます。
  場所が決まったら、まず表面の枯れ草などを除けますが、これらが「掘った穴に入らないように」と言われて、ちょっと意外でした。てっきり栄養になっていいんじゃないかと思ったのですが、逆に苗を枯らす一因になってしまうのだとか。
  根が収まる深さの穴が掘れたら、根の先が広がるようにして苗を置き、土を被せます。このとき、垂直というよりは苗が斜面に沿うように少し傾けて植えるのがポイントなんだそうです。確かに、そうしておかないと、確実に根付く前に大雨が降ったりしたら、苗ごと流されてしまうんでしょうね。被せた土を、トグワの背や足を使ってしっかり抑え、手で引っ張っても苗が抜けなければOKです。

 作業自体は特に難しいとは感じませんでしたが、これが1日に何百本もとなると、想像しただけでも腰が痛く、また気が遠くなりそうでした。
  下村さんは、さすがに手慣れていて、私がもたもたしているうちに、ひとりで黙々と次々に苗を植えていきます。なんでも、集団でやっていると、ついつい競争心が起きて、人よりたくさん植えたくなってしまうものなのだとか。でも、そのせいで作業が雑になっては元も子もなくなるので、そこは自制してきちんと植え付けるように心がけるそうです。

 

 それにしても、こうやって手ずから植え付けた苗は、自分の子どもみたいに愛着が湧くものですね。今回私が植えさせていただいた苗も、これから多くの人に支えられながら、雨ニモマケズ風ニモマケズすくすくと成長していってほしいものです。
  そして、50年60年を経てこの木が立派に一人前になる頃、日本の林業も国民の生活にしっかりと根を下ろしていますように、また、人と自然がお互いを活かし合う、地球環境にも優しい未来が訪れていますように。そんなことを願いながら、曇り空の松阪を後にしました。

 

葛城奈海さんのホームページ  http://www.katsuragi-nami.com