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『 石部の棚田で畦作り 』
西伊豆は松崎の田んぼへ行ってきました。
長年親交のある民宿「ヴィラ扇」のオーナー、細田栄作さんが石部という集落の棚田の復元に取り組んでいて、毎年田植えの時期には声をかけてくださる(動員がかかるともいう)のです。3回目となった今回、スケジュールの関係で田植え支援部隊の本隊の到着寸前に引き上げなければならなかった私は、結局畦作りを手伝うことになりました。
5月27日(土)、そぼ降る雨の中、海を見渡せる棚田に降り立った畦作り部隊は、隊長の栄作さんと、地元小学校の校長である幹人先生と私の3名。周囲の田んぼはというと、既に早苗が揺れているところもあるものの、ほとんどが田植え前、もしくは畑や花畑、栗畑に転用されているか、放棄されたままの状態です。目を凝らすと端の方には、ヒノキが植林され森になりつつあるところも見受けられます。この日作業している人は他には見当たらず、初夏を思わせるエネルギーに満ちた森に囲まれ、石垣の合間にも緑が映える棚田に、私たち3人だけが動いています。
腰痛を抱えた栄作隊長がまず見本を示し、その後は幹人先生と私が手分けして作業を進めることになりました。田んぼ用の地下足袋で、代掻きの済んだぬかるみに足を踏み入れると、雨のせいか水が冷たく感じられます。幹人先生が田んぼの端から畦へと泥をかき揚げ、それを私が鍬で畦の側面と上部に撫で付けていきます。ちょうど土壁を塗っていくような要領なのですが、これがなかなか難しいのです。ぶにゃぶにゃしている泥を均一に撫で付けるために、まず鍬の刃の背面を利用して数センチ幅ずつずらしながら圧力を加えていきます。この作業は一見すると、ハモの小骨を切るかの如く、ぶにゃぶにゃに数センチ幅の切れ込みを入れているようにしか思えなかったため、当初私は目的をとりちがえ、泥を均一化するため、いかに等間隔でこまかく切れ込みを入れるかにばかり気を取られていました。が、畦道の補強であると共に田んぼの水漏れを防ぐための作業なので、これでは意味がありません。加えて、これまで耕すことにしか鍬を使ったことがなかった私は、この変則的な扱い方に馴染めず、思いっきりへっぴり腰になっているのが自分でもよくわかります。見かねた栄作隊長になんどかコツを伝授して頂き、その鮮やかな鍬さばきと滑らかな仕上がりに舌を巻くうちに、ようやく目的とするところが見えてきたのですが、作業そのものに慣れたのは水の冷たさを感じなくなった頃でした。
先行する幹人先生は、腰を伸ばしながら「いや〜、これはひとりでする作業ではないな。
みんなと喋りながらやるからいいんであって、ひとりでやってたら滅入ってきそう……」と苦笑い。私も田植えの時間まで残れない申し訳なさから、ついつい休憩もとらず黙々と作業してしまったのですが、正直なところ、僅か1時間ほどでも腰はけっこうきつかったです。
それでも、直径2cm近くありそうな特大のタニシや、見慣れない白いサワガニと出会えて興奮しましたし、たどたどしいながらも田んぼ一枚分完成した畦を眺めたときには心地よい達成感に包まれました。研修生のみなさんからよく耳にする「山がきれいになったときの達成感」というのは、きっとこの充実感が何倍にも膨らんだような感じなんでしょうね。
僅かな時間の労働でどれだけお役に立てたのかは心もとないばかりなのですが、新緑が逞しさを増して木々の生気がむせ返るような伊豆で、私自身がエネルギーをもらって帰ってきたような、そんなひとときだったのでした。
葛城奈海さんのホームページ http://www.katsuragi-nami.com |