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珍客の足跡――石部の棚田で畦作りU 2007.APR
GW前半、西伊豆の松崎へ行ってきました。昨年に引き続き、石部という小さな集落で棚田の畦作りをするのが目的です。今回は助っ人をひとり連れて行きました。西伊豆の海岸線からは、雨上がりの真っ青な空と海に、雪を頂いた富士山の優美な姿がひときわ映えています。松崎で民宿「ヴィラ扇」のオーナーをしている細田栄作さん一家の笑顔に迎えられ、地物の干物で腹ごしらえして、いざ棚田へ。

栄作さんは相変わらず腰の具合が芳しくないので、実際の作業は助っ人と私のふたりで行いました。田んぼには大小さまざまなタニシがいっぱい。辺りでは、「グワッ、グワッ、グワッ」と小さな体に似合わぬ大きな声で雨蛙が鳴き交わしています。指の間から、にゅるっと入ってくる泥を足裏に心地よく感じながら、前を行く助っ人が畦へと掬い上げてくれた泥を私が鍬で均し、土壁を塗る要領で畦を作ります。
ツワブキを初めて採りました。まだ産毛が生えている新芽は葉も茎もすべておいしく食べられます。
ぽかぽか陽気の棚田で畦づくり
具体的には、まず、鍬を少しずつずらしながら、盛られた泥に圧力をかけて空気を抜きつつ均一化していきます。ムラなく作業できれば、ちょうどヒラメの縁側のように美しい模様ができるのですが、大雑把な私の手元ついつい乱れがちに……。これを左官やさんが土壁を塗るように、鍬の背で均して仕上げます。このとき右から左へはスムーズにできても、その逆はすぐにひっかかってしまって、なかなか思うようにいきません。それでも、徐々に要領がつかめてきて、バックハンドともいうべき左から右へも滑らかに動かせるようになってくると、しめたもの。スピードも上がるし、がぜん作業が楽しくなってきます。ヒラメの縁側を作る工程でも、日頃稽古している剣術と同様、腕を使わず、膝を緩めて腹の力を利用すれば、ぐっと楽になることに途中で気付きました。こういう発見があると、効率も上がるし、しんどい作業の中でも思わず「ふふふ」と笑みがこぼれて、やる気が湧いてきます。一番難しいのは水没している部分です。水漏れを防止する意味でも大切な作業なのですが、目に見えない上に、水が作用してなかなか思う通りに泥を塗り込められませんでした。
ちょっと慣れてきた、かな。
初日は、お日様が傾く時間まで作業しました。
 
一連の作業では、腰にけっこうな負担がかります。1時間ほどして、栄作さんが用意してくれた椅子で、一休み。心地よい風に吹かれて見上げれば、濃淡様々な萌黄色に彩られた新緑の山が目を楽しませてくれます。棚田を見下ろしていくと、その先には周囲の山々によって逆三角形に切り取られた青い海。足元では、雨蛙が気持ちよさそうにすいーすいーっと平泳ぎしています。その姿を目で追っていたら、畦に停まり、お尻だけ水に浸けたスタイルで、喉元を膨らませて鳴き始めました。「夏には蛍も出るよ」という栄作さんの話に耳を傾けながら、初夏の陽射しを浴びて、私たちもしばしのーんびりと寛ぎました。こんなすばらしい環境なのに、この春には小学校も廃校になり、棚田もいつまでもつか心もとないというから、実にもったいない話です。こんな時代だからこそ、なおいっそう存在価値を認められて然るべきだと思うのですが、そのためには、行政側の仕掛け作りも必要になってくるのでしょう。

初日は1枚目の田んぼを仕上げたところで作業終了。帰り道、棚田付近に自生しているクレソンと、蕗と、ツワブキを採りました。ツワブキなんて、硬そうで食べられるものとは思っていなかったのですが、まだ産毛の生えている新芽を、葉は天ぷら、茎は佃煮にしてもらったところ、大変おいしかったです。その夜は、金目鯛をはじめとする西伊豆の海の幸と、この後収穫した筍や明日葉も含めた山の幸を肴に、棚田で作った黒米を原料にした焼酎を呑む、というなんとも贅沢な小宴となったのでした。
水車の隣で、クレソンを採りました。
蕗採り。根元の赤い部分から採って、葉っぱはその場で土に返します。
 
畦作りの喜びは、成果を目で楽しめるところにあります。自分たちの手できれいにした畦を眺めるのは気分がいいですし、苦労した分だけで達成感もひとしおです。2日目の朝、
「昨日の成果を確かめてから、今日の作業に入ろう」
と、1枚目の田んぼに上がって見渡したところ・・…。
「やられたっ」
なんと、土壁のようにきれいに仕上げたはずの畦の上に、点々と足跡が残されているではありませんか!それも、一周きれいに。足跡の主は、どうやら狸のようでした。困ったような、微笑ましいような……。まさか嫌がらせではないと思うので、よっぽど歩きやすかったのか、狸も心地よかったのか。思いがけないできごとでしたが、「狸にまで気に入ってもらえる出来」だったと都合よく解釈すれば、まんざらでもない、かもしれません。
珍客の足跡。これが一周きれいに残っていました。模様だと思えば、思えなくもない、かな?

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