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葛城奈海のがんばれ林業
葛城奈海の木もれ日の部屋

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岐阜で出会った粋な匠たち 2007.SEP
『MIDORI PRESS』の取材で岐阜を訪ねました。猛暑の夏でしたが、折しも岐阜県多治見市では国内観測史上最高という40.9度を記録したばかり。8月も下旬にさしかかったというのに、この日も挑戦的な夏雲が青空にぽかりぽかりと浮いていました。それでも、今回の舞台は水の町として有名な郡上八幡ということで、大いに涼を期待しつつ、一路取材地へ。
最初に訪れたのは、岐阜森林アカデミーです。まず度肝を抜かれたのが、木造でありながら都会的で、それでいて山間の自然にしっくりと調和し、アートを感じさせるアカデミーの建物の数々。いきなり感動して資料を頂いたところ、86,000本の岐阜県産の間伐材を用い、できる限り自然をいじらず無理なく建てられる場所を選んで施設を分散させたと知り、さらに感心してしまいました。
岐阜県産材を用いた近代的な建築、岐阜森林アカデミー。
笑顔がステキな杣師の内橋さんと。
ここでは、「葛城奈海の林業探訪」のコーナーに登場していただく内橋良三さんにお話を伺いました。緑の研修生はじめ数多くの森林の担い手たちを育ててきた内橋さんは、富山に生まれ、鍛冶屋や大工なども経験した後、戦時中に秩父から疎開してきた親方の姿に憧れ、杣人になる決心をしたそうです。親方は、70メートルもあるような神社の大木に登りながら枝を落とし、上から玉切りしつつ、伐った幹をロープで吊って静かに下ろすというような作業をしていたそうで、まさに、空師ですね。当時は、「空杣」といったそうです。
これまで研修生だけでも数百人、それ以外も含めると数千人という教え子を持つ内橋さんですが、教え子を事故で亡くされた経験もあり、基本の大切さをしっかりと認識してもらえるよう気を配っていることが伝わってきました。お話し上手で人気指導員だという内橋さんは、80歳近いとは思えないほど体つきもがっしりとして逞しく、目元に刻まれた深い笑い皴が魅力的な、頼もしいおじいちゃんでした。
長良杉パネルや唐松材を使い、ショールームも兼ねた新社屋。
郡上に移動し、続いて白鳥林工協業組合へ。ここでも、まずお洒落で開放的な木造の事務所に目を奪われました。これは、「サンプルをお見せするより、実際に建物になった状態をお客様に見て頂きたい」と、ショールームを兼ねて建設された新社屋なんだそうです。理事長の美谷添清和さんのお話がまた大変心に残りました。というのも、「例えば暖かい地方の杉で50年のものと、こちらの杉70年のものとほぼ同じ太さです。お客さんからすれば割高感が否めませんが、『その分、年輪が詰まっていますし、なにより、この木々が長良川の水を育んでいるんですよ』とお話しすると、だいぶ印象が変わるようです。林業に携わる人たちは、これまでこうした説明努力が足りなかった。それは率直に反省しなければならないと思います」とおっしゃるのです。
また、美谷添さんは施主さんを、その木を伐り出した山まで案内したりもするとか。林道を車で走りながら、「遠いですね」「でも、昔はさっきあった最後の家のところから、ずっと苗木を担いで行ったんですよ」などという会話があり、現場では「ここで70年かけて育った木です。この地の歴史を背負っているんですよ」と話すと、「子どもが大きくなったら必ずまたここに連れてきたい。そのときには、新たな木が育っているのでしょうが、ここで70年かけて育った木が我が家の木なんだよと教えてやりたいです」という反応が返ってきたりもするとのこと。
こうした美谷添さんの心配りは、研修生や従業員に対してもきめ細かく行き届いていて、インタビューの最中に若い人たちが生き生きとした笑顔で次々と現場から戻ってきたのも印象的でした。
2日目の午前はお天気が崩れたことから、郡上八幡城などを見物し、午後は「森林の暮らしレポート」コーナーの体験取材で、重要無形文化財でもある嶋数男さんから魚籠(びく)作りを教わりました。
嶋さんは「郡上びくの最後の職人」と言われている方なのですが、今回私が作ったのは、厳密にいうと、「花を活けたコップを置く藤蔓細工」です。材料となるのは、嶋さん自らが山奥へ分け入って採ってきた「大つづら藤」。地を這っている藤だそうで、年をとって体の自由が利かなくなってきたことから、もうこの先採りにいくのは無理かもしれないとのことでした。これを3年間乾燥させた後、水に浸して柔らかくし、造形します。
嶋さんが、折り紙をヒントに思いついたという、兜、茄子、虫など蔓細工の常識を覆すような自由な発想の作品の数々は、どれも味わい深いものばかり。私もたどたどしい手つきながら、夢中で形を作っていきました。驚いたことに、嶋さんは90歳近いという年齢を感じさせないほど、指も体も動きのテンポが速いのです。私が往生していると手を貸してくださるのですが、そのごつごつとした指先を見ていたら、今は亡き祖父から草鞋作りを教わったときのことが思い出され、なんだかじんときてしまいました。
あるところまでくると、嶋さんが、唐突に作品の四隅を板に釘でどんどんと打ちつけ始めました。呆気にとられていたところ、こうしないと乾燥後に作品の座りが悪くなってしまうため、3日間は、そのままの状態で置いておくとのこと。
ご自宅の一角にある嶋さんの工房。
というわけで、作品を持ち帰ることはできなかったのですが、板に打ち付けられたまま、嶋さんがトルコ桔梗を活けてくださったのを見て、思わず息をのみました。自分でもはっとするくらい、涼やかな風情を醸し出しているではありませんか!!考えてみれば、嶋さんがつきっきりで指導してくださったのですから、当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが、それでも世界にたったひとつしかない作品の出来ばえに、我ながらうっとりでした。
撮影を終えると、奥様ともども取材スタッフ一同を自家製のスイカやメロンでもてなしてくださり、そのお心遣いに、また心打たれました。「郡上びく」の技を継いでくれる人がいないというのが、惜しまれてなりません。
この夜は、酔い覚ましをかねて、長良川の支流である吉田川沿いを、ひとりそぞろ歩きました。振り返ると、闇の空に郡上八幡城が白くぽっかりと浮かび上がっていたのでした。
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