北姶良森林組合
鹿児島県の中央部、鹿児島空港からほど近い湧水町は、日本名水百選にも選ばれた「丸池の湧水」の地。水源豊かな場所で森林資源も豊富だ。
東は雄大な霧島連峰、北西に九州山脈矢岳支脈の両山系に挟まれ、南九州でも雄大さを誇る山々に覆われている。
北姶良森林組合は、湧水町・霧島市(牧園・横川)管内の組合員所有の山林約1万2000haを伐採管理している。
鹿児島県姶良郡湧水町木場149-6
TEL:0995-74-2130
- 小川 貴弘(おがわ たかひろ)さん
37歳 フォレストワーカー2年目 -
- 所属
- 北姶良森林組合
- 家族
- 独身(一人暮らし)
- 趣味
- 日曜大工
- 前職
- 運送業
- 東 雄大(ひがし ゆうた)さん
30歳 フォレストワーカー2年目 -
- 所属
- 北姶良森林組合
- 家族
- 妻 子ども(保育園2人)
- 趣味
- 海釣り
- 前職
- 製造業(工場勤務)
- 松井 昭悟(まつい しょうご)さん
27歳 フォレストワーカー2年目 -
- 所属
- 北姶良森林組合
- 家族
- 父・母・妹
- 趣味
- バドミントン
- 前職
- 農業用品販売営業
- 八ヶ婦 幸宏(やっかふ ゆきひろ)さん
27歳 フォレストワーカー2年目 -
- 所属
- 北姶良森林組合
- 家族
- 妻・子ども(小学生・幼稚園・0歳)
- 趣味
- 草野球
- 前職
- 製造業(工場勤務)
様々な職業からの転職。
林業を選んだのは「労働時間の安定」
北姶良森林組合には、転職して林業に従事する人が多い。現在フォレストワーカー2年目の4人も全員他の職業からの転職組だ。「前職は運送業。勤め時間が長時間で不規則、毎日残業をするのが当たり前でした」「3交代制の製造業に勤めていましたが、変則勤務で身体を壊してしまい退職しました」など、転職の理由に全員が「不規則な労働時間を改善したかった」と語る。
実際に林業に就職し、仕事はきっかり8時スタートで17時終了に変化。「生活が規則正しくなり、寝起き寝付きも驚くほど早くなった」と感じる人や「風邪をあまり引かなくなり、健康になった」と感じる人もいる。林業に転職し、望んでいた「労働時間の安定」を手に入れられたことに全員が満足している様子だった。
規則正しい労働時間だが、現場は想像以上に厳しい。
起 床 : 6時ごろ
現場集合 : 8時
小 休 憩 : 10時
昼 食 : 12時
午後作業 : 13時
小 休 憩 : 15時
作業終了 : 17時
北姶良森林組合では、複数のチームに分かれて作業を行う。毎朝、それぞれの班長から作業指示を受け作業開始。2年目の彼らは、現在は伐倒作業を中心に仕事を行なっている。チェーンソーで木を倒していくのが主な仕事だ。「木を切る伐倒作業は、想像以上に奥深い作業です。チェーンソーで簡単に切って倒せると思っていましたが、実際は大違い」と全員が口を揃える。「重量が5~6kgあるチェーンソーを動かして樹木に切り込みを入れる作業そのものがまず大変でした。最初のころは、思い通りの場所に切り込みが入らなかった。切る場所がずれたり、角度が浅かったりしていました。体力が備わってコツを掴むまで伐倒は緊張の連続でした」と松井さんは言う。また、山に入り木を倒す林業という仕事は、決して平地で行う外仕事と同レベルの仕事とは言えない。「だからこそ、一旦山に入れば細心の注意を払い、念には念を入れて自分の身を守り、常に安全な作業を心掛けることが危険を回避することにつながります」と、安全には細心の注意を払っている。
さらに想像と違ったのは、夏山の作業環境だ。小川さんは「山の中で仕事をするので、風もさわやかだと思っていました。ところが鬱蒼とした山は風も通らない。午前中だけで身体が悲鳴をあげるほど汗をかき、水分補給していてもクラクラするときもあります。雨の日や夕立がくると「救いの雨」という気分になります」と夏の現場の厳しさを語った。
どんな厳しい環境や現場でも、作業終了は17時。残業をすることなく、ほぼ定時に現場を後にする。林業は朝が早いし、体力を使う仕事だ。決まった時間に起き、しっかり食事をとって、ぐっすり眠る。働くことと休息、規則正しい生活のリズムが、安全で効率の良い仕事に直結するのだ。
オフタイムの充実!これも林業に転職して得た宝。
17時に仕事が終わるため、オフタイムは趣味や家族のために多くの時間を費やせるのが林業の魅力のひとつ。子どもがいる八ヶ婦さんと東さんは、子どもと遊んだり、家族と過ごしたりしているようである。また、バドミントンの社会人チームに所属する松井さんは「平日の夜と休日はバドミントン三昧。好きなスポーツを続けられるのが嬉しいです」と語る。
仕事以外に自分の趣味を追求したり、家族との時間を大切にすることができる林業という職業に、満足している各々の気持ちが伝わってきた。不規則な生活を送っていた時代を経験しているからこそ、その喜びは大きいのだ。
まずは安全に作業をする。その上で技術の向上を目指す!
現場での徹底した指導により、安全に対する意識も高くなってきた彼ら。八ヶ婦さんは「林業に携わっている限り、怪我をせずにいきたい」と語る。また他のメンバーも「伐倒で一番を目指すのではなく、怪我をしないで伐倒できる人を目指したい」など、まずは安全に作業を行い、その上で技術を向上させていくことを目標にしている。「まずは伐倒が上手くなりたい。そして重機のオペレーションにも挑戦したい」「班長の技術を盗み、 班長を超えるのが目標です」と、将来の自分を和やかに語る4人のフォレストワーカーたち。
それぞれにそれぞれの目標がある。林業は技術と経験が何よりも大切だ。仕事を始めてそれが分かるからこそ、自ずと目標が見えてくる。現在の自分のスキルを自覚し、磨くこと。先輩を目標に邁進すること。そして忘れてはならない安全への更なる配慮。
「職人としてのキャリアを積んで、現代の林業にふさわしいスキルが備わった人間になりたい」との思いが全員から伺えた。
やりがいや楽しさがある。だからこそ続けられる。
間伐という仕事は鬱蒼とした森林の木を切り、光を入れ、山の生命を継ぐ仕事だ。「作業前には太陽の光も入らない暗い森林を間伐すると、明るく光が降り注ぐ。その光景をみると思わず感動します」と言う小川さん。また、松井さんは、山主が「自分の山を手入れしてくれてありがとう」と声をかけてくれると「やってよかった」と励みになるという。また、伐倒の醍醐味について「自分の思った通り倒れると嬉しく、倒したとき大地と一体化する音がたまらない」と語る東さんなど、各々林業のやりがいを感じている。
また、林業ならではの楽しみとして、自然の中で食べる毎日の昼食は格別なのだと。そして、四季折々の山菜やきのこを楽しめることだと口を揃えた。
林業に携わることは毎日が自然との戦い。厳しい環境下で自分を磨き、安全面と技術面に神経を集中しながら木と向かい合う。同じ環境を共有するメンバーだからこそ、お互いを思いやり助け合う気持ちが強くなる。作業を終えて周りを見たとき、森からの感謝の光が降り注ぐ。「一見同じように見えても、どれひとつ同じ作業はなく、ひとつ一つの作業が真剣勝負。やりがいがあり、仕事の喜びがありますよ」と声を揃える。
「労働時間の安定」を求めて林業の世界に飛び込んだ若者たち。大変な仕事だが、やりがいも、楽しみも、そして何より求めていた安定もある。ON とOFFのメリハリを楽しむ彼らの笑い声が山々にこだました。